東北アジア研究センター 佐藤 源之 教授が 般社団法電子情報通信学会 2018年度業績賞(第56回) を受賞しました。本賞は、 電子工学及び情報通信に関する新しい機器、又は方式の開発、改良、国際標準化でその効果が顕著であり、近年その業績が明確になったものに与えられる賞です。

 

 

地雷検知センサALISの開発と人道的地雷除去活動

受賞者 佐藤 源之,高橋一徳

 

内戦終了後地中に残された地雷は,国土の利用や多くの国で農業活動への大きな影響を与え,経済復興の妨げとなっている.1997年オタワ条約を契機に地雷で汚染された土地から地雷を除去し住民に返還する人道的地雷除去活動は世界から注目を集めてきたが,地雷被災国で実際に埋設地雷の撤去を終えた数は少なく,今後20年以上地雷除去作業が続くことが予想されている.

日本学術会議は1999年に「人道的地雷探知・除去技術の研究推進検討小委員会」を設置し,その答申を受け文部科学省はJST人道的対人地雷探知・除去技術研究開発推進事業を開始した(1).この事業の一環として受賞者らの研究グループでは地雷検知センサALIS (Advanced Land Mine Imaging System)を開発してきた.ALISは電磁誘導センサ(金属探知機)と地中レーダ(GPR)を組み合わせたセンサであり,操作員が手動で走査することで地雷検知作業を行う.ALISは加速度計によるセンサ位置追跡システムを搭載しており取得したデータに対して合成開口レーダ(SAR)処理を施し,地下埋設物を3次元可視化できる世界唯一の地雷検知センサである.

ALISの開発はJST推進事業において基礎的な研究を経てプロトタイプを完成し,日本学術振興会科学研究費補助金の支援を受けて,ソフトウエアの開発ならびにカンボジアへの実践的導入を成功させた.ALIS開発と活動について多くの学会発表を行い,SAGEEP(米国環境学会)(2),電子情報通信学会(3)など論文賞受賞として学術的な成果も認知されている.

ALISの開発段階ではカンボジア地雷除去センター(CMAC)6人で構成する1チームを結成しALISプロトタイプの評価試験を実施した.評価試験では金属反応があった全地点について掘削確認を行い,位置と判定結果の真偽を記録する.2009年から2台のALISプロトタイプを用いて行った評価試験で検知された対象物は15,621個であり,総計254,867㎡の農地の地雷除去を完了した.この中で総計78個の対人地雷をALISは検知したが,そのほとんどが旧ソビエト製対人地雷PMN-2であった.総計15,621個の金属反応の中で3,522個は実際には金属片であるのに地雷として作業員によって報告されたが12,081個は金属片を,ALISによって正しく金属片として識別し,82個の地雷はすべて正しく地雷として識別された.従って本計測範囲の場合,15,621カ所の金属検知地点のうち,12,081カ所つまり約77%の金属片を地雷の可能性はないとして掘削確認する作業を省略できることを示すことができた.この比率の高さがALISが従来の金属探知機より作業効率が高いことの証であり,金属探知器に替えて地雷検知作業に導入する最も重要な理由である.

大型機械で地雷を踏みつぶす「機械除去」の手法も地雷除去作業で利用されているが,農村内部での利用は限られ,また機械除去作業後の検証にハンドヘルド型地雷検知センサが利用されていることは,あまり知られていない.

ALISはハードウエアの小型軽量化を企業との共同研究で推進し,2017年に商品化した.本装置には受賞者らが開発した2件の特許を含むソフトウエアがタブレット端末上のAndroidに実装されている.評価試験によってその性能が確認できたためCMACでは20191月よりカンボジア地雷原での本格運用を開始した.本研究は電波科学技術を国際的な平和構築に利用するという点でも極めて独創的かつ重要であり,本会業績賞にふさわしいものである.

 

(1)    JST人道的対人地雷探知・除去技術研究開発推進事業 http://www.jst.go.jp/kisoken/jirai/index.html

(2)    Motoyuki Sato, Kazunori Takahashi and Yuya Yokota, ”ALIS- GPR 3-D Imaging for Humanitarian Demining”,  SAGEEP Meeting in Tucson, Arizona 2012 (Best Paper 受賞)

(3)    Riafeni Karlina and Motoyuki Sato, “Model-Based Compressive Sensing Applied to Landmine Detection by GPR” IEICE Transactions on Electronics, E99-C(1), pp44-51, 2016.  (2017年電子情報通信学会論文賞,喜安善市賞受賞)

 

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図1 カンボジア地雷原で活動するALIS
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図2 ALISで得られたカンボジア地雷原の対人地雷のGPR画像

佐藤源之研究室 http://magnet.cneas.tohoku.ac.jp/satolab/satolab-j.html

電子情報通信学会 https://www.ieice.org/jpn/about/rekidai/kakushou.html