地中レーダによる地雷探知技術の現状と課題
対人地雷の人道的探知・処理に関するワークショップ論文集に収録
佐藤 源之
東北大学東北アジア研究センター
〒980-8576 仙台市青葉区川内
sato@cneas.tohoku.ac.jp
TEL/FAX (022) 217-6075
The state of the art of the abandoned land mines by GPR
Motoyuki Sato
Tohoku University
Center for Northeast Asian Studies
Kawauchi, Sendai 980-8576 Japan
sato@cneas.tohoku.ac.jp
Abstract:
This paper summarizes the stat of the art of ground penetrating radar (GPR)
applications to abandoned land mine detection. GPR is a new subsurface
exploration technology, especially suitable for objects buried in shallow
subsurface. GPR can detect both metallic and non-metallic object, therefore
it is useful for land mine detection. However, conventional GPR systems
cannot directly be applied to land mine detection, due to some reasons.
Anti personnel mines are buried very near to the ground surface, and discrimination
of reflections of the mine from the ground surface is difficult. Also,
the rough grounds surface causes serious clutter. High frequency array
antennas and synthetic aperture radar system have been proposed to improve
the radar resolution. Natural resonant frequency of a land mine is unique
information only determined by the shape of the mine. Detecting these natural
frequencies is another approach to practical GPR applications.
はじめに
金属、非金属を問わず地中埋設物を探知できる地中レーダは地雷探知用センサとしての実用化が期待されている。地中レーダは既に地下埋設管検知、地質調査、舗装面下空洞検知などの分野で既に広く利用されている。また世界的には地中レーダを地雷検知に応用するための研究は既に多数報告されている。しかし、実用化に至るまでには解決すべき問題点が幾つか指摘されている。本稿では、地中レーダの原理を述べた後、地雷検知に地中レーダを利用する研究の現状を紹介するとともに、地中レーダの原理に基づく地雷検知上の問題点と、解決のための研究の動向について解説する。
地中レーダの原理と応用
図1 地層境界面からの電磁波反射
地中レーダは電磁波パルスを地表に置かれた送信アンテナから地中に放射し、反射波を受信アンテナで捉えることで、地中の反射物体を検知する方法である。送信アンテナから放射された電波は地層境界面などによって反射を受ける。受信アンテナが捉えた反射波をパーソナル・コンピュータで記録する。地中の電波速度が既知の場合、反射波の往復走時時間(s)を計測することで反射体の深度d(m)は次式で推定できる。
(1)
電波が地中から反射するのは地中に不均質な物質が存在することによる。電波を反射する不均質物体は金属のような導体が最も顕著であるから、金属製パイプやケーブルの地中レーダによる検出は容易である。しかし電波に対しては絶縁体も反射体となりうる。ただし反射が発生するためには2種類の異なる比誘電率を持った誘電体(絶縁体)が存在する必要がある。
最も簡単な場合として図1では上層と下層で比誘電率の異なる2層媒質構造を考える。このとき、上層から入射する振幅1の電波は境界面で反射を受け,振幅の反射波が発生する。は反射係数と呼ばれ、水平な2層構造の境界面では次式で与えられる。
(2)
ただし は2層の媒質の誘電率である。(2)式は2層の異なる媒質の誘電率の比率が反射波の大きさを決めることを示しており、反射係数はの範囲に存在する。これに対して下層媒質が導体である場合、導体表面で電磁波は全反射されるため反射係数は
(3)
となり、誘電体境界層に比べて大きな値をとる。
実際の地中レーダが検知する対象物は無限に広い金属板や地層境界面ではなく有限の大きさをもつ。電磁波に対する物体の反射率をレーダ散乱断面積で表現する。複雑な形状の物体のレーダ散乱断面積は数値計算などで見積もることができる。一方、パイプのような線状導体からの反射は電磁波の偏波依存性が極めて強い。電磁波の偏波方向と線状導体の方向が一致するとき、線状導体の直径が小さくとも極めて大きな反射を発生するが偏波方向と線状導体の方向が直交すると反射を発生しなくなる。こうした性質から、パイプやケーブルなどの検出には偏波の向きと計測対象を一致させる必要がある。
地中レーダによる地雷検知
図2 送受信アンテナ間の電波伝搬
地中レーダによる地雷検出の最大の特長は、地中レーダが金属、非金属を問わず検知可能であることにある。これにより、プラスチック製の地雷など、通常の金属探知器では検知不能な場合にも応用が可能となる。地雷は種類によりいろいろな形状をもつが、対人用では数cm、対戦車用で20-30cm程度の大きさが、典型的である。これらは、通常の地中レーダに使用される周波数1GHzの空間中での波長30cmに比べて、1波長以下の大きさである。地雷のような複雑な形状を持つ物体からのレーダ散乱断面積は周波数依存性を有するが、波長に比べて反射物体が小さい場合はレイリー散乱と呼ばれ、波長に比べて大きな物体ほど強い反射を発生する。乾燥した土壌の比誘電率が5程度、湿った土壌の比誘電率は20−30程度である。これに対して通常のプラスティックの比誘電率は3−5程度であり、乾燥した土壌に近い値をとるが、反射波は発生すると考えられるが、それほど強くないことも想定しなければならない。
また地中レーダではアンテナを移動するため大型のアンテナが使用できず、アンテナから放射される送信電波の照射範囲は対象物である地雷よりも大きくなる。このため、計測した反射波形から地雷の形状を直接可視化することは一般に容易ではない。
図3 地中レーダプロファイルにおいて直達波、地表面反射波、目標反射波が分離する例
(Courtesy Mala Geoscience)
更に対人地雷は地表面、あるいは地表から数cm程度の浅い深度に埋設される場合が多い。地雷が埋設されている場所は裸地あるいは草地で、地表面は荒れている。地中レーダのアンテナは地表面の粗さによって地表面に対して密着できず、不均質な間隔が生じる。(2)式にあるように、空中から地表面に放射された電波は地表面で強く反射を受ける。図2に示すように、地中レーダの受信波は送受信間で空中を伝搬する直達波、地表面反射、そして目標反射波の順番で到達する。送受信波形は時間的な広がりをもつから、3種類の波はお互いに重なり合う。図3に実際の地中レーダ波形例を示す。このレーダプロファイルでは地層境界面が数m程度の深度にあるため、直達波、地表面反射と反射波は明確に分離しており、地層境界面が明確に捉えられている。一方、図4(a)にコンクリート表面で計測したレーダプロファイルの原波形を示す。レーダの移動に伴い、ほぼ一定の波形しか認められないことがわかる。これは目標反射波が直達波と地表面反射に比べて振幅が小さく、しかも表面付近に目標物があるため地表面反射と目標反射波がほぼ同時に到着するため識別が難しい状況を示している。図4(b)は、原波形に対してf-kフィルタと呼ばれる信号処理を施すことで、レーダが移動しても変化しない信号成分を差し引くことで、地下埋設物からの反射波を強調した結果である。周期的に配置された表面から鉄筋からの反射波が検出できている。
地表面反射やアンテナ間直達波は地中レーダ計測で常にシステム上の問題となる。アンテナ間直達波の除去にはシールドによるアンテナ間結合の軽減、直交送受信アンテナの利用が行われる。また地表面反射は例に示したように信号処理によって除去するのが普通である。しかし舗装面等平滑な地表面では有効であるが不整地では効果が十分でない場合もありうる。
地中レーダを地雷検知に応用する場合の問題点をまとめると、以下のようになる。
(1) 波長に比べ目標物形状が小さい。
(2) 目標物体からの反射波強度が弱い。
(3) 目標が浅いいため、直達波と反射波の識別が難しい。
(4) 地表面が荒いことによるクラッタが発生する。
一方、通常の地中レーダに比べ地雷検知では目標物が浅いため電波の減衰があまり問題にならず、高い周波数の利用が可能である。
(a) 原波形 (b)フィルタ処理後の波形
図4 地表面に接近した対象に対する地中レーダプロファイル
地中レーダによる地雷のイメージング
地中レーダを利用して地雷を直接検出した例を図5,6に示す。図5は砂、図6は道路用砕石に地雷が埋められているが、いずれの場合も、地雷形状が検知できている。しかし、地表面が荒れている場合にはこのように明瞭に反射波が現れない。
図5 従来型地中レーダによる地雷検知例。 図6 従来型地中レーダによる地雷検知例。
対人地雷を砂に埋設。 対戦車地雷を道路用砕石中に埋設。
高分解能地中レーダによるイメージング
表面が粗さをもつため、局所的に反射波の変動が大きい場合、それより高い分解能を有するレーダにより、表面反射の影響を軽減することが提案されている。図7はEC
GEODE, MINEREC, LOTUS プロジェクトで開発の進められているSARシステムの例である。多数の小型アンテナを利用することで、データ取得の高速化と高分解能化を同時にめざしている。
(a) アンテナ素子
図7 高周波アレーによるイメージング
(Chignell et. Al., 2000)
図8 合成開口レーダシステムの例
(Kappra et al. 1999)
図9 合成開口レーダシステムによる不発弾検出の例 (Kappra et al. 1999)
一方、一つのアンテナを移動しながらデータを取得し、大きな開口をもつアンテナと同等の鋭い異指向性を実現する手法が合成開口レ(a)
アンテナ素子ーダ(SAR)である。本手法は衛星からの地球表面観測などで利用されているが、地表面からアンテナを空中に配置しても同等の効果を得ることができる。図8,9は米国陸軍研究所(ARL)によって開発されているBoomSAR
システムであり、50MHz- 1.1GHzフルポーラリメトックシステムである。
地中レーダによる地雷の特徴抽出技術
地中レーダにおいて対象物からの反射波は、地表面反射や、地中の砂礫などの不均質体からの反射波であるクラッタに埋もれているのが普通であり、地雷のように反射波が弱い場合には特にその検知が難しい。クラッタに埋もれた信号に、目的とする信号が含まれているかどうかを知る手法の一つとして、固有共振周波数の利用が提案されている。
有限の大きさをもつ物体に電磁波が照射されると、電磁波エネルギーは物体の周囲で共振現象を起こす。共振現象は金属物体の場合、金属表面に誘導される電流によって発生するし、誘電体物体の場合、物体内部に蓄積される電磁波エネルギーによって発生する。レーダ反射波は共振によって
(4)
なる波形を示す。ここで
(5)
が物体固有の複素共振周波数である。図10に、実際に地中レーダ波形からProny法によって抽出した固有共振周波数を示す。固有共振周波数は埋設状態に関わらず、常に一定の周波数を示すから、あらかじめ埋設されている地雷の固有共振周波数がわかっていれば当該地雷の有無をクラッタの影響を受けずに判定することが可能である。しかし、固有共振周波数は周囲の媒質によって変化すること、共振が極めて弱く、高精度な推定が要求されることなど研究の余地も多い。
図10 固有共振周波数による地雷検知(Peter et al, 1994)
まとめ
本稿では地中レーダの原理と地雷探知への応用についての研究の現状を紹介した。既存型の地中レーダを実際に地雷探知に利用した試みは多数報告されている。こうした実験例はサイト依存性が極めて強く、また統一的な評価が難しいため、本稿では触れていない。しかし埋設管検知用などの目的で開発された地中レーダをそのまま地雷探査に利用しても成功する確率はあまり高くなく、それにより地中レーダが地雷探知には適さない方法であるとの評価を受けることがないように、研究を続ける必要がある。
最近の地中レーダに関する国際会議では地雷探査に関するセッションが設けられるが通例になっている。新しいハードウエア、信号処理技術、また研究者間での情報交換が極めて重要な分野と認識しており、そうした意味での地中レーダによる地雷探知研究は開始されたばかりの新しい技術である。
参考文献
Mallinson and Daniels, 1996, Impulse Radar Mine Detection, Detection of
abandoned land mines, 7-9 October 1996, Conference Publication No. 431,
IEE.
R. Chignell, H.Davis, N.Frost and S.Wilson, 2000, The radar requirements
for detecting anti-personnel mines, in Eighth Int. Conf. on Ground Penetrating
Radar, SPIE vol. 4084, 861-866.
L.Peters, J.Daniels and J.Young, 1994, Ground penetrating radar as a subsurface
environmental sensing tool, Proc. IEEE, vol.82, no.12.
K.Kappra, M.Ressler, L.Nguyen and T.Ton, 1999, Army research laboratory
landmine and unexploded ordnance experiments and results, Part of the SPIE
conf. On Subsurface Sensors and Applications, SPIE vol. 3752.